考察
バックテストの結果と、このモデルの理論的背景について
バックテストの結果
774レース(2025/11〜2026/02)のバックテストで、確率モデルの性能を検証しました。
確率ランキングは有効
的中した組み合わせの確率順位の中央値は16位(平均445通り中)。 ランダムに選んだ場合の中央値は223位になるため、モデルはランダムの約14倍の精度で的中組合せを上位にランク付けしています。
- Top 1: 的中率 8.4%(ランダムの38倍)
- Top 3: 的中率 21.3%(ランダムの32倍)
- Top 5: 的中率 28.6%(ランダムの26倍)
- Top 10: 的中率 39.1%(ランダムの18倍)
利益は出ない
しかし、最も回収率の高いTop 1戦略でも回収率は47%でした。 確率順位は有効でも、利益を出すことはできません。 これは市場効率仮説で説明できます。
なぜ利益が出ないのか: 市場効率仮説
オッズに全ての情報が織り込まれている
競馬のオッズは、過去成績・血統・調教タイム・天候・馬場状態・騎手の力量など、 あらゆる公開情報を市場参加者が織り込んだ結果です。 このモデルはそのオッズから確率を推定しているため、オッズにすでに含まれている情報以上の知見を得ることができません。
構造的な75%の壁
JRAの3連複控除率は25%(払戻率75%)。全組み合わせを均等に購入した場合、 回収率は確実に75%になります。 オッズから導出したモデルでは、どのような重み付けをしても、 加重平均の回収率はこの75%に収束します。
なぜ単一モデルでは回収率が75%に固定されるのか
もし確率とオッズを同じモデルから導出すると、回収率は必ず75%(3連複の払戻率)に固定されます。 これは数学的なトートロジー(同語反復)です。
分子と分母の が完全に相殺されるため、 どのような重み配分をしても回収率は変わりません。 このため、本ツールでは単勝オッズと複勝オッズの2つの異なるデータソースを使っています。
単勝 × 複勝の2データソースアプローチ
単勝オッズ(市場モデル)と複勝オッズ(確率モデル)という 異なるデータソースを使うことで、75%の壁からのズレを生み出しています。
単勝は「1着確率」を、複勝は「3着以内確率」を反映しています。 この2つの市場の評価のズレにより、個別の組み合わせの回収率は75%から変動します。 ただし、加重平均としては依然として75%前後に収束するため、全体で利益を出すことはできません。
「それでも勝てる方法があるのでは?」
75%の壁を超える方法について、よく挙げられる反論とその回答をまとめます。
「AI・機械学習を使えば勝てるのでは?」
機械学習モデルが使う特徴量(過去成績、血統、調教タイムなど)は、 すべて他の市場参加者もアクセスできる公開情報です。 これらの情報はすでにオッズに織り込まれています。
仮にAIが市場より正確な確率を推定できたとしても、 同じ手法を使う参加者が増えればオッズが修正され、優位性は消滅します。 これは株式市場のアルゴリズム取引と同じメカニズムです。
「オッズの変動タイミングを利用すれば?」
締め切り直前のオッズ変動を利用する戦略は理論的に存在しますが、 JRAの投票締め切りは発走直前であり、大量の資金が最後に流入します。 最終オッズは締め切り前のオッズと大きく異なることが多く、 「変動を先読み」すること自体が困難です。
また、仮にタイミング戦略が有効だとしても、 それは「オッズに織り込まれていない情報」ではなく 「まだ織り込まれていないだけの情報」であり、 最終オッズでは反映されます。
「プロの予想家は勝っているのでは?」
長期間の回収率データを公開している予想家は少なく、 公開している場合も生存者バイアスが存在します。 100人が予想を始めれば、統計的に数人は短期的に高い回収率を出しますが、 それは実力ではなく確率的な偏りです。
長期(1,000レース以上)で控除率25%を上回り続ける予想家の存在は、 学術的には確認されていません。
「非公開情報(インサイダー)があれば?」
馬の体調不良、調教の手応え、厩舎の勝負気配など、 公開されていない情報を持つ関係者は理論的に優位性を持ちえます。 しかし、これは合法性の問題であり、 競馬法で規制されている領域です。
また、関係者の購入行動はオッズに反映されるため、 「不自然な人気の変動」として市場に情報が漏洩します。 結果として、非公開情報の優位性も限定的です。
他のギャンブルとの比較
競馬の3連複(控除率25%)は、ギャンブル全体の中でどのような位置づけなのかを比較します。
| ギャンブル | 控除率 | 払戻率 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 宝くじ | 約55% | 約45% | 最も不利。1枚300円の期待値は約135円 |
| 競馬(3連複) | 25% | 75% | 100円あたりの期待値は75円 |
| パチンコ | 10〜15% | 85〜90% | 店舗設定により変動。長時間拘束 |
| カジノ(ルーレット) | 2.7〜5.3% | 94.7〜97.3% | シングルゼロ/ダブルゼロで異なる |
| カジノ(ブラックジャック) | 0.5〜2% | 98〜99.5% | 基本戦略使用時。最も有利なギャンブル |
競馬の控除率25%は宝くじ(55%)よりは有利ですが、 カジノ(0.5〜5%)と比較するとかなり不利です。 100回賭けた場合の期待損失で比較すると:
- 宝くじ: 100回 × 300円 × 55% = 16,500円の損失
- 競馬3連複: 100回 × 100円 × 25% = 2,500円の損失
- ブラックジャック: 100回 × 1,000円 × 1% = 1,000円の損失
どのギャンブルも長期的には必ず損失が発生します。 違いは損失の速度だけです。
よくある非効率な買い方
多くの競馬ファンが無意識にやっている買い方の中に、数学的に損失を拡大するパターンがあります。 バックテストの結果から、以下の行動が非効率であることが示されています。
「絞れないからボックスで広げる」
5頭ボックス(10通り)や6頭ボックス(20通り)は、的中率が上がる代わりに回収率を確実に下げます。 バックテストでは、購入点数を増やすほど回収率は単調に低下しました。
| 買い方 | 点数 | 的中率 | 回収率 |
|---|---|---|---|
| Top 3(最少の絞り込み) | 3 | 21.3% | 45% |
| 5頭ボックス相当 | 10 | 39.1% | 33% |
| 6頭ボックス相当 | 20 | 56.1% | 31% |
的中率は3倍近くに上がっていますが、回収率は45%から31%に低下しています。 「絞れないから広げる」は損失を拡大する行為です。 しかも実際のボックスは確率順位を無視した全組み合わせなので、 確率上位のTop Nよりさらに回収率が悪くなります。
「的中率を上げれば勝てる」という誤解
的中率と回収率は別の指標です。 的中率を上げるために点数を増やすと、投資額が増える一方で、 追加した組み合わせは確率が低い(=当たりにくい)ものです。 結果として1レースあたりの損失額が増えます。
- Top 3: 1レースあたり300円投資 → 平均165円の損失
- Top 10: 1レースあたり1,000円投資 → 平均670円の損失
- Top 20: 1レースあたり2,000円投資 → 平均1,380円の損失
たまに当たる喜びは増えますが、トータルの損失も増えていきます。
「人気馬同士のボックスなら堅い」
人気馬同士の組み合わせは的中確率が高い反面、オッズが低いため、 当たっても配当が投資額に見合いません。 例えば5頭ボックス(10通り=1,000円)で的中しても、 人気馬同士の3連複は配当が1,000〜3,000円程度のことが多く、 外れた分の損失を取り戻せません。
「大穴を狙えば一発で取り戻せる」
高配当の組み合わせは的中確率が極めて低いため、当たるまでの累積損失が配当を上回るのが通常です。 バックテストでは、的中した組み合わせの75%が確率順位47位以内でした。 確率的に下位の大穴は的中してもそれまでの損失に見合いません。
ギャンブルの認知バイアス
人間の脳はギャンブルにおいて合理的な判断を下すことが苦手です。 以下の認知バイアスを知っておくことで、非合理な行動を避ける助けになります。
損失回避バイアス
人は同じ金額の「利益」と「損失」を同等に感じません。 1,000円を失う苦痛は、1,000円を得る喜びの約2倍の強さがあります(プロスペクト理論)。 このため、損失を取り戻そうとして賭け金を増やす行動(いわゆる「追い上げ」)に陥りやすくなります。
追い上げは「負けるほど賭け金が増える」構造であり、 控除率25%の環境では損失を加速させるだけです。
ニアミス効果
「あと1頭で的中だった」という体験は、実際には完全に外れた場合と結果(損失額)は同じですが、 脳は「惜しかった=次は当たりそう」と誤解釈します。 3連複では「2頭は当たっていた」というニアミスが頻繁に発生し、 これが購入を継続する動機づけになります。
サンクコストの誤謬
「ここまで使ったお金を回収したい」という心理は、 過去の投資(すでに失ったお金)に基づいて将来の判断を歪めます。 過去の損失は取り戻せないコスト(埋没費用)であり、 次のレースの期待値とは無関係です。 次のレースの期待回収率は、常に75%前後です。
ギャンブラーの誤謬
「5レース連続で外れたから、次は当たるはず」という考えは誤りです。 各レースは独立事象であり、 過去の結果が次のレースの的中確率に影響を与えることはありません。 コイントスで5回連続表が出ても、次に表が出る確率は50%のままです。
確証バイアス
的中した体験は鮮明に記憶され、外れた体験は忘れやすい傾向があります。 「あの予想法でよく当たる」と感じていても、実際に全レースの収支を記録すると、 多くの場合、期待回収率の75%前後に収束します。
このツールの最適な使い方
- 確率構造の可視化として使う: どの組み合わせが相対的に有利かを確認し、自分の予想と照らし合わせる材料にします。
- 購入点数を絞る: バックテストの結果、少数精鋭(3〜5点)が最も回収率が高い戦略です。 点数を増やすほど的中率は上がりますが、損失率も大きくなります。
- 過信しない: このモデルはオッズの構造を可視化しているだけであり、 利益を保証するものではありません。購入は自己責任で行ってください。
- 自分の情報と組み合わせる: このモデルにない情報(馬場読み、パドック観察、レース展開予想など)を 加味することで、モデル以上の判断が可能になる場合があります。
- 損失の上限を決める: 1日の投資額、1ヶ月の投資額に上限を設け、 それを超えたら購入をやめるルールを事前に決めておくことが重要です。